2024年5月 Plastic Treeのアルバム振り返り日記(後)

 

から続き。

 

 

 

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5月17日 『ドナドナ』(2009年)

 

佐藤ケンケンが加入して最初のアルバム。全体的に文章的な雰囲気でしっとりしていて、歌詞の圧というか先導力が強くなった。また色々と今までにない楽曲や作風を試している感が強い。これは順番に聴いてというよりももっと後になってからこのアルバムを聴き返していて思ったのだが、後の『doorAdore』辺りへと至る路線はしっかりここから始まっていたのかもしれない。

アコースティックと電子が降り混ざったような1曲目『1999』は、今聴くと後のケンケン作曲っぽさも少し感じるような。

攻撃的なロックサウンドながらよりお歌の主張が強くなった『梟』、ともすれば竜太朗のソロ弾き語りっぽくなりそうなところを上手くバンドに落とし込んでいる『エとセとラ』、エロティックなエレクトロ『コンセント』などを通過し、そこにサナトリウムという切り札みたいな超バラードが待ち受ける。アンビエントフリーセッションみたいなインスト『---暗転。』も結構好きです。

 

『やさしさ倶楽部』、感動した。歌詞に共感した。

 

 

 

指折りのお気に入り曲です。筆者は基本的にはこの曲が似合う空気のなかにずっといたい、みたいな感じ。

 

 

 

 

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5月18日 『アンモナイト』(2011年)

 

アニメ主題歌でおなじみ『みらいいろ』収録作。結構00年代V系バンドらしい曲が多いが、そこに『Thirteenth Friday』『ムーンライトーーーー。』『ブルーバックみたいな曲が差し込まれてくる。アキラ曰く「相当出来上がった頃のPlastic Tree」。

筆者も見事に「じゃあ『みらいいろ』が入ってるこれから聴いてみるか」と最初に手に取ったアルバムで、1曲目『Thirteenth Friday』で「うわっマイブラだ! このバンドは全部聴こう」となった記念のアルバムでした。

ちなみにサブスク配信では『みらいいろ』だけ諸般の事情でカットされています。俺は怒っている。

 

開演SEに使っているマイブラ『Only Shallow』の代用に作った曲だからその曲と近いんだけど、『Only Shallow』が情交と昏睡ならこちらは祈りと果てしない夜みたいなイメージ。

 

竜太郎がなき父に捧げたという『バンビ』も外せない名曲。普段湿っぽい曲ばかりやってるPlastic Treeがそういう時にはこんな曲で示しちゃうのがイイですよね。「淡い甘い記憶で僕は  案外、悲しいだけじゃないかもね」

『アイラヴュー・ソー』もロックンロールで好き。ラストの『spooky』も当時の勢いづいた機運を感じる。

ケンケン作曲よりブルーバック。ノリの良いナンバーが席巻している本作に暗く沈殿な重力を与えている。そしてこの曲をもってメンバー全員が作曲(いずれは作詞も)を手がけるバンドになった。

 

 

 

プラでは指折りに前向きな歌詞ながら彼ららしさもしっかり息づいているという点でも大事な曲だなあと。勿論アニメ「遊戯王5D's」の 滅びの未来と対話していくイメージにも相応しかった。

 

 

 

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5月19日 『Hide and Seek (Rebuild)』(2012年)

 

2012年作アルバム『インク』の初回盤特典に付属していた1stの再録盤。特典作品なのだが、ぶっちゃけアルバム単位ならこれが一番好きかもしれないし、「国内シューゲイザーの傑作盤は?」という話題の時には筆者はずっとこの一枚が頭に浮かんでいる。リメイク作品の宿命として旧作への思い入れが強い人にはウケはよくないんだけど、控え目に見ても国内ゴシック・シューゲイザーの至宝なんじゃないでしょうか。

原作盤との比較で言えば少年のようなキュートさが死霊のような鬱蒼さに変わって、楽器の音はもう一目瞭然なほどに全面パワーアップした。こっちの『痛い青』『割れた窓』『スノーフラワー』『Hide and Seek #4』らが諸々の陳列からハブられる形になっているの、あまりにも罪ですよ。

 

 

 

 

 

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5月20日 『インク』(2012年)

 

蒼く深い美音空間へと一気に花開いた。多分オリジナルアルバムでは今のところ一番好きな一枚。

表題曲『インク』ほど美しい曲はない。「瞬きほどの闇で こんなにも綺麗」とはまさにその曲のこと。弦の波紋が伝う『くちづけ』もとても美しきリード曲。私が中学生だったらノートや机の至るところに『あバンギャルど』の歌詞を書きまくっていた。ライフ・イズ・ビューティフルは弾き語り系楽曲からの傑作。これぞシングルチューンな『静脈』はライヴ音源でこそ輝くかな。そして暗く深いところからその美しい顔を浮かべる『てふてふ』

例えば、BUCK-TICKが『或いはアナーキー』を出した時のような、或いはLUNA SEAが『MOTHER』を生み出した時そうであったろうような、「今日ここまでの既存を超越した新たな美音楽空間が出てきたぞ」というような衝撃。このアルバムを初めて聴いた時にはそんな高揚がありました。次々回作『剥製』辺りまではその色合いの流れにあると受け取っています。

 

日本一の……主語を小さくすれば千葉県一のシューゲイザー歌謡。

 

 

 

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5月21日 『echo』(2014年)

 

7曲入り(導入曲を除けば6曲)のミニアルバム。

前作からの蒼い空気感を継承しつつも、エッジの効いたギターサウンドとピアノ・キーボードがアルバムを通して鳴り続けている。騒ぐ楽器とメルヘンとノスタルジィ。

……変な言い方かもしれませんが、このアルバムは『影絵』以外は自分の中で「良いと思うけど、まだ『これだ!』っていうほどにはハマれていないな」というような感覚もあり。それは曲が不十分というよりも私の方できっかけがもう一つ足りていないような。まあでもこれを書いていたおかげでヒントに辿り着けそうかな。

『影絵』は10年代プラのバラードの最高峰だと思います。

 

 

 

 

 

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5月22日 『剥製』(2015年)

 

『インク』『echo』の流れを汲みつつ、その流れの完成盤とも思える一枚。ややシングルっぽい曲が集中しすぎているきらいもあるが、それだけに個々の楽曲はやはり強いか。

『フラスコ』は『インク』と並んで最上級に好きなナンバー。イントロのギター、流麗なAメロ、せり上がっていくBメロ、花開くようなサビのすべてが完璧。『マイム』はアップテンポで賑やかながら個人的にはしっとりとも聴いていられるのがポイントかなとも思ったり。

そしてシングル向きみたいな曲が並んでいるからこそ、ラストの大沈殿美術館『剥製』が映えわたる。

 

「生きていた証」「存在のパッケージ」「永遠にされたもの」「プラスティックでできたトゥリー」──『剥製』。最高のアルバムタイトルではないでしょうか。

 

 

 

 

 

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5月23日 『Plastic Tree Tribute ~Transparent Branches~』(2017年)

 

デビュー20周年 “樹念” のトリビュートアルバム。折角なのでこの流れで改めて聴いてみようかなと。あくまでプラの振り返りなので他のアーティストにはそこまで触れられないですが。

 

トリビュート参加者一覧

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良いカバーが揃っています。筆者はカバー作品などは解体・再構築してナンボだと思っているので、そういう面ではPeople In The Boxの『エンジェルダスト』なんか良いなあと。あえてドV系っぽい曲を選んで改造したっていうのも趣深いですね。一方でのMUCCの「本筋の人来ましたよ感」もあっぱれだけど (笑)。ノベンバの『アンドロメタモルフォーゼ』、雰囲気はHallelujah頃らしさがあるけど音は既にややANGELSへ向かっていっている気もするかな。

 

そしてPlastic Tree本家によるセルフカバー『ゼロ』は、バンドの大切な曲だし、シューゲイザーソングとしても大きな一曲です。ライヴのクライマックスで披露された時にはまさに会場全体を昇華させていくようだった。

 

足しても引いても  掛けても割っても 

何も変わらない魔法があるなら

明日を呪って  明日を夢見て 

どこかしら似てるような僕らに祝福を

 

 

 

 

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5月24日 『doorAdore』(2018年)

 

前作までの「蒼さ」を残しながら、よりバンドサウンドにしろデジタルにしろアコースティックにしろ直球勝負な音づかいが増えた印象。月並みな言葉になってしまうが「何を弾いたってPlastic Treeの色になる」という手応えを自覚しきってるからこそ出来たアルバムのような。様々なフレーズが鳴っているけど色はすべて統一されている感じ。ずっと安定感がある。

ノクターン、今聴くとちょっとイエモンっぽいな……と思ったけどそういえばイエモン『8』とアルバム全体の雰囲気が近いかもしれない(あちらはバンド離散直前というヒリヒリ感も強いけど)(ニューアルバムが同日に出るんですねー)。

 

 

 

 

 

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5月25,26日 『続 B面画報』(2019年)

 

続 B面集。2枚組になったがやっぱり何曲かは入っていない。入れなさいよ。

前『B面画報』に比べるとインディーチックというよりも「片隅の佳曲」のような楽曲たちが並んでいるような感じ。『灯火』なんかまさしくそういう位置かな。アイレンもおよそシングル向きではないけれど先進的な作風に挑んだきらいのある良曲。

インスト曲も2曲収録。『回想、声はなく。』は今聴くとParannoulっぽくも聴こえる。バミューダトライアングルもデジタルな統率と加速していく突進力を持ち合わせていて好き。あと『バンビ』はこちらのver.の方が好きだったりもします。

『はじめての×××』、目に入ったら聴きがち。

 

 

 

アルバムに入っていないのは初期曲から再録したRebuildシリーズと、いくつかのライヴ音源、リミックス音源など。以前一枚ずつシングル盤をかき集めたけど今となってはこれらの方が何曲かはサブスクですぐに聴けるという妙。

とりあえず『鳴り響く、鐘(Rebuild)』『サーカス(Live Arrange Version)』は是非。

 

 

 

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5月27日 『十色定理』(2020年)

 

2日後に最新アルバムの座を下りる準新作。タイトルからも「このバンドの味はメンバー全員が出す多彩なカラーだ」という自負が伝わる。あっ、偉そうにここまで書いてきたけどリアルタイムで買ったと言えるアルバムはこれだけです。すいません。

オープニングナンバーの『あまのじゃく』、以前はちょっと引っかからないような感覚もあったけど今聴いてみたらしっくりきた。前作の『遠国』をより広大で幽にした感じみたいな。暗黒というよりもモノクロ、宇宙というよりも砂の歴史、人気のない静寂な夜に聴いていたい、そんなイメージ。

メデューサはもうシンプルに好きです、アキラワールドだ。『remain』は改めて聴くと「『トロイメライ』を今録ったらこうなります」みたいな趣もあるかな(当時のメンバーじゃないケンケンがそれを携えて来てるのも面白い)。一方の『月に願いを』はケンケンらしい「暗いけど重すぎない」終盤曲。

そうして、『エンドロール。』という プラのラストナンバーとしてこれ以上ないくらいのハマりっぷりを醸していた曲も、ようやく “次回のPlastic Tree” が出るのです。お疲れ様。

 

 

 

海に降る雨を見て  おんなじ事思ってた

こんな風に在ったとこに戻れたらいいのにね

 

くらくら  世界が綺麗だ

 

 

発売後、このアルバムを引っさげてツアーを予定していたがコロナ禍により全面中止。しかしメンバーはその後3年に渡って音源制作ではなく同時配信型での連月に及ぶライヴ活動継続へと全振りしていった。誰も予測できなかった事態のなかで 誰もあまりやっていないバンド活動の形へと舵を振り切った彼らは、粗末な表現かもしれないが「かなり格好良かった」し「流石すぎた」と思う。

(ライヴ盤は割愛と言いつつ、そのコロナ禍に開催されたオーケストラアレンジ公演の音源『Symphonic Concert【Act Ⅱ】』は取り上げても良かったかもなとも思ったり)

 

 

 

 

 

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2024年5月29日発売 『Plastic Tree

 

……今日一日もうずっとこればっかり聴いているのですが……そう、まず「一枚の新譜を一日中聴いている」という状態がなんだかかなり久しぶりな気もします。傑作盤です。

うーん出たばかりだからこそ、思いつきみたいな文章をここでああだこうだ書いてしまいたくないというリスナー感情もありますが。「Plastic Treeらしい色を全部混ぜたら黒色に濁りはじめた」かのような。Plastic Treeのディープなところもアクティヴなところも夢幻的なところも俗世的なところも全部が一つの薄闇色に統一されて展開しているような。まさしく「Plastic Treeを一枚で象徴する傑作」なのではないでしょうか。

個々の曲の話題……に行くと止まらなくなりそうなので触りだけにしたいですが。特にお気に入りの曲は『ライムライト』『メルヘン』。ベッタだなあ (笑)。ベタでいいんです、出たばっかしだし。勿論ラストの『夢落ち』も圧巻でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関係ないけど、いつぞやのプラがアンコール中ぐだぐだトークの流れでいきなりROSIERを途中まで演って何故かその後全員で弁明しまくっていたという話、好きです。