この5月29日にPlastic Treeの約4年ぶりのオリジナルアルバム『Plastic Tree』が発売されるということで、今月中に彼らの過去のアルバムを一枚ずつ聴いておさらいしていくことにしました。そして折角なので聴き返していったアルバムの感想などをここに綴っていこうかなと。
オリジナルアルバム+B面集+再録アルバム等込みで23枚分(ライヴ盤はもう一ヶ月くらい必要になるので割愛)。当然そのすべてを深掘りするなんてとても出来ないので、日記のような形で淡々と触れていこうかなと思います。
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5月3日 『Strange fruit -奇妙な果実-』(1995年)
インディーズ時代の盤。インディーズ作品なのでやはりいろんな発売モデルがあるらしいが、筆者が所持しているのは上のジャケットで後の追加トラック『メイク』が入っていないタイプ。
「妙にヴィジュアル系っぽくない大御所V系」と語られるPlastic Treeのなかでゴリッゴリにヴィジュアル系っぽいアルバム。という印象が強かったけど、今聴くとこの時点でUKっぽさを感じる。
筆者は正直あまり好きではない一枚だったが、今なら「ダークで耽美なギターロックという面以外はそもそもやっているジャンルが他のV系とも(それ以外のバンドとも)全然違う」ということが伝わるような。「とにかく地下室臭い痩せ細ったアングラがやりたい」という執着がなければこんなアルバムできないだろうなあ。
空気のう〜ず、死ぬほうほ〜う、まとわりつく嘘〜とか〜♪
5月4日 『Hide and Seek』(1997年)
一転して大のお気に入りの1st。自分の趣味で言えば傑作と名高い次回作よりもこちらの方が好きかな。
今作の硝子の粒子をまぶしたようなギターサウンドが大好き。前作と比べると曲の展開量も格段に増えた。仄暗い霊性とロックらしいサウンドとうつろなキュートさのバランスが抜群。やっぱり名盤!
だいたい好きな曲しかないけど、その中でも『水葬。』が頭一つ抜けて眠れる海の底のアンセム。
5月5日 『Puppet Show』(1998年)
こどもの日にサーカスがやってきた。
デビューから2枚目にして初期の傑作と名高いアルバム。所属元の経営難等に追われ、もうバンドが終わるかもしれないという覚悟のなかで叩き出した一枚だという逸話がある。うーんPlastic Treeというバンドが一貫して「逞しい」バンドであることを一つ証言しているような逸話だ。
幽霊少年時代のPlastic Treeの集大成のような作品だが、ここでまた格段に楽器隊の分厚さと肉感が強くなっていて、人間味が沸いてくる次回作以後への流れも感じる。
『本当の嘘』はもうずっと大好き。『クリーム』はライヴ盤を聴いて一気に好きになったな。閉塞的な歌詞だと言われるバンドが叫んだ「ねえ僕が出した手紙は届くかな」。そして
文字通りの「永遠の名曲」。
5月6日 『Parade』(2000年)
いよいよアングラ路線を離れて日の下に出たような初々しさのある3rd。
初期のメディア的代表曲『Sink』の収録作でもあるが、しかし時代はLUNA SEA終幕を最大の象徴とする “V系ブーム終焉の年” 2000年。ああ「Plastic Treeはほとほと微妙な立ち位置のバンドだった」(勿論彼らがそれらを理由に消滅したりしなかったからこそその称号があるのだが)。
この頃はアルバム曲より未収録のB面曲たち(後述)の方が好きだったりする。『空白の日』はやっぱり良い曲。「00年代のPlastic Treeが始まったな〜」ってなりますね。
何も知らない僕はいつか 眠りつづけるから
誰も届かない夢の中で 溺れて
5月7日 『CUT ~Early Best Selection~』(2001年)
ここまでの再録ベスト盤。リメイクに挑むには尚早だったという意見も多いが……というか当時の路線とかつての楽曲との折り合いがあまりついていない感じ。
とかなんとか言いつつ『痛い青』はオリジナルよりこっちの方が好きだったり(もっと言えば更に11年後の再録派だけど)。『ツメタイヒカリ』もこっち派かな。
この年に当時のDr.のTAKASHIが脱退するので、アルバムとしてはこれがデビューメンバーでの最後作になる。
5月8日 『Single Collection』(2001年)
ワーナー在籍時代のシングル盤収録曲集……と言ってもB面曲は何曲か入ってない。もう8cmCDなんて見つけても再生できるかも分からないのでどうにかならんかなあと思う(一応メンバー監修ベストなのか?)。
B面曲からは『鳴り響く、鐘』と『「月世界」』が特にフェイバリット。そしてA面にしてアルバム未収録だった名曲『プラネタリウム』はもう、まさに第一期ラストソングのような貫禄。
5月9日 『トロイメライ』(2002年)
「V系界のロキノン」とか言われていく方向(楽器のけたたましさが別次元だと思うが)に覚醒した一枚。
インディーズから出した。Dr.がササブチヒロシになった。NARASAKIに参加してもらった。ナカヤマアキラが曲を上げるようになった。と史的概要を見てもまさに転換点。代表的名盤です。
改めて聴くと「そういうコンセプトアルバムなのかな」というほどに完成された白昼のモラトリアム世界。音で展開する空白と圧迫のコントラストが絶品。
『蒼い鳥』はわりと近年になって好きになったかな、憧憬的なイメージ。圧倒的すぎるギターサウンド『散リユク僕ラ』。グランジっぽくてエレクトリックで好きな要素しかない『懺悔は浴室で』。ポップさに細かい音作りが光る『赤い靴』『ガーベラ』。この時期ながらにV系根性 (笑) が炸裂したような『千葉市、若葉区、6時30分。』。バンドの素顔というか核を見せつけるようなラストナンバー『雨ニ唄エバ』。め、名曲しかない……。
しかし何をどうしたらここまでぼんやりと悲観的な詞ばかり書けるのだろう……(笑)。
やっぱりこの曲大好きだな〜って。
5月10日 『シロクロニクル』(2003年)
おそらく一番V系っぽくないアルバム。『もしもピアノが弾けたなら』と『バカになったのに』(The ピーズ)のカバーとかが入っている。
シングル曲『水色ガールフレンド』を筆頭に、プラにしては暖かげでロマンティックなラブソングが並んでいる印象。でも終盤はやっぱり痛々しい。『バリア』で「正体見せたね。」ってなります。
この頃は他の時期ならもっとゆらりとした曲だったんじゃないかという楽曲でも走って刻んでいる印象(『サンデー』とか)。NARASAKIかブッチの影響だろうか。
『イロゴト』はいつぞやのライヴで聴いた超シューゲイザーなアレンジが忘れられないなあ。情緒な名曲。
5月11日 『cell.』(2004年)
先立って述べるとこれの次回作と次々回作がそれぞれ「この時期のプラの完全体」とも言うべきアルバムになる(と思っている)ので、本作はその直前。まさに孵化寸前の細胞のような、ちょっとぐちゃぐちゃしてアレンジ過多な味のあるアルバム。
プラで一番 “私の趣味ど真ん中” みたいな曲はわりと『cell.』だろうなと思っています。サイバーでシニカルで厭世な鋭利さ。「不感症の目には涙を。悲劇的な彼女に笑みを。走り去った影に光を。色のない世界には絵の具を。」
往年のキラーチューン『メランコリック』はここで登場。『「雪蛍」』は00年代前半の空気だな〜って感じ。
壊れながら 失いながら 僕らは加速してつき進む
我を忘れ 時を忘れて いつかセツナイモノに変わったなら
実績の名歌詞。わ、若い……w
5月12日 『シャンデリア』(2006年)
改めてたくさんの外部スタッフに参加してもらったとのことで、良い意味でどの曲でもシングル切れそうで、かつ過去一多彩なアルバムになったかと思う。あとかなり生音寄りにもなったかな。
1曲目『ヘイト・レッド〜』で今までになく洋楽チックなヘヴィさを見せつけ、ザックザクのギターサウンドにそれこそロキノン系かというようなポップソング『ナミダドロップ』、一転V系フィールドでしっかりウケそうなヘヴィリフの『Ghost』、低音ギターとハイライトな歌メロで大疾走していく『puppet talk』。アコースティックな『37℃』もしっとりジャズな『ラストワルツ』も、そしてかの『空中ブランコ』もここに収録。
『ナミダドロップ』めちゃくちゃ好きです。あまりポップだよねの一言で片づけてほしくないくらい。ギターが主役かな。『puppet talk』も気持ちよくて大好き。『六月の雨(雨降りmix)』もエピローグに相応しいような良きアレンジ。
余談ですが、04年に偏屈デジタルロックみたいなアルバムを出し、06年『空中ブランコ』で出自のゴシックテイストを観劇的に再生させ、08年には王道めな生音バンドロックに寄せていったPlastic Tree。……それぞれ丁度一年前のBUCK-TICKに習っていたんじゃないかと勘ぐってしまう。いや単純に同じ時代だからかもしれないけど。そうだったら嬉しいなあ。
まあ、「Plastic Treeの空中ブランコは完全にBUCK-TICKで言うところのROMANCEだ」ってことです。
5月14日 『ネガとポジ』(2007年)
満を持しての傑作盤。UKロック・オルタナテイストと詩的情緒と歌謡性の大パッケージ。名曲しか入ってない。近年のライヴでもおなじみな楽曲の多さがその名盤ぶりを語っているか。
バンド堂々のオープニングナンバーと呼べうる『眠れる森』、Nirvanaなギターから枯れた夜情が伝わる『不純物』、シングル曲じゃないことに驚いてしまうほどキャッチーな『ザザ降り、ザザ鳴り。』。……プラを代表するバラードは? と言えばやっぱり『真っ赤な糸』と『スピカ』だろうか、ちょっとクセをつけて大曲『アンドロメタモルフォーゼ』……うん、3曲ともこのアルバムなのだ。
あまり披露されないところでは『egg』がかなり好き。音と勢いが気持ち良い。あと活字SNSはずっとこの曲を爆音で流しとけばいいのだ。 「あなたの言葉なのか? 思い込まされてただ マナーマナー唱える それほど迷惑かな」「色眼鏡異端者は選ばれし者気どる」「L/R振れるまで笑顔で答えたがる マナーマナー唱えるだけなら」
『アンドロメタモルフォーゼ』はライヴver.のクライマックス感に触れてこそ決定打でした。でも原曲ver.の、行くあてもなくただ積み重なっていくような感覚もやっぱり良いなーとも思う。
それはそうと「『真っ赤な糸』が入ってない(初回盤の)ネガとポジがある」のは「ROSIERが入ってないMOTHERがある」くらいのでけえバグだろ。
5月15日 『B面画報』(2007年)
これまでにアルバム未収録だったシングルB面曲を網羅したアルバム(それでもあぶれている曲もあるのだが)。インディーで見劣りのない楽曲が並んでいるうえに、影の(?)名曲『藍より青く』も入っているので十分な必聴度を誇る一枚。甦るインディーズ時代な『エンジェルダスト』もあります。
『lilac』は音色や空白感が非常にツボで好き、この頃のプラの筆者が好きな要素が詰まっている。いかにもB面らしい曲では『ジンテーゼ』と『白い足跡』がかなり好きです。『ロム』も今聴くとありそうで他と被ってないような良曲。
『冬の海は遊泳禁止で』という、確実な人気もありつつ曲名も妙に有名な名曲も収録。タイトルで勝ってるとはまさにこのこと。
一分の隙もなく完成された歌詞じゃなかろうか。
消えないように 消さないように
何もかも塗り変えていく
また、この時期と言えば初の武道館公演に宛てた限定曲『ゼロ』も外せないかもしれませんが、筆者は後の再録ver.しか持っていません。
5月16日 『ウツセミ』(2008年)
ササブチヒロシ最後の在籍アルバム。このアルバムと次回作は、嫌いでは全然ないんだけどどう言葉にしたらいいのか難しい。
ポップスなバンドロックに接近している。と言っても「普通のメジャーバンドになりましたね」というのとはむしろ真逆で、「ここまで普遍的な曲調でもプラの音と味が申し分なく発揮されている」という感触。表題曲『うつせみ。』なんかまさしく「このサウンドを他のミュージシャンもやってくれるなら私はV系に依拠しないわ」くらいに思わされたが、たとえばそういうような普遍性と独自性。
ああ、この辺でアルバムのカラーイメージが真昼(と夜)から夕暮れに変わったようなイメージもあります。全体的にしっとりしている。
入りの「僕らはね、忘れていくから 覚えていてね。黒猫よ。」の一節を聴くと子どもの頃飼っていた黒猫を思い出すという話は、どうでもいいようで筆者のこの曲へのイメージを決定づけているのだ。
そしてこのアルバムをもってササブチヒロシがバンドを離れ、次回作から佐藤ケンケンが加入して現行メンバーが並ぶことになる。 (続)