サガシリーズで衝撃を受けたイベントの構造のお話 【+サガエメ冒険記 ④】

 

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筆者はサガシリーズを遊んでいるなかで、「シナリオイベントの構造」みたいなところで大きな衝撃を受けたことが2度ほどありました。

 

 

「イベントの構造」──という言い方で正しいのかは分かりませんが、例えば「あの伏線には唸らされた」とか「あそこからの展開が凄かった」とか、そういうことではないお話。

“フリーシナリオ” と呼ばれるサガ特有の作風(その言葉自体は今やRPG全般に普及したきらいもあるが、サガのフリーシナリオは独特の視点と手法・制約のなかで展開されているのでやはり「特有」だろう)においてのシナリオの展開のさせ方。「これからの物語が順番に、或いは大体エリアごとに配置されている」という形式とはちょっと違ったイベント構造において唸らされた話。

そんな話題を。

 

まず一つ目というのがこれ。

 

 

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はい。もったいぶったわりに超有名なやつでしたね (笑)。

そう、超有名なワンシーン。筆者もかつて初めてロマサガ1を手に取るにあたって「あの選択肢画面の画像は何回も見たことがある」くらいの感覚からプレイを開始しました。問題はその前後、というかこのシーンに辿り着くまでの過程。

 

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罪なき村女を助けるために始まった四天王たちからのお使いイベントはことごとく振り回され、ダンジョンを潜って目的の四天王に会えたかと思ったらまた次の四天王の根城にまでお使いを頼まれる。巨大ダンジョンに次ぐ巨大ダンジョン巡り。その間、水竜の湖から始まって四天王のダンジョン×3ヶ所。人の命が一つかかっているとはいえどう考えてもひょんなお使いにしては長すぎる道中だ。

もううんざりしながら最後のダンジョンの四天王に会いに行くと、その四天王フレイムタイラントからも「アイスソードを持ってきたらお前の頼みに応えてやる」と返される。まだあるのかよこのお使い! と悲鳴を上げるプレイヤー。

いやしかしアイスソードならどっかの町で売っていたぞと気を入れなおしたプレイヤーは、とある町でアイスソードが異様に高い値段で売られていることを確認する。なので今度はそれを買うために何とか高い資金を調達してから再び店に訪れるのだが、そこでアイスソードはさっき誰かが買ったからもう売り切れだよと言われてしまう……。

 

もうプレイしたことのない方でもお分かりかと思います。ここで、道ばたでアイスソードを見せびらかしているガラハドと出会うのです。

……ガラハドからすれば、ねんがんのアイスソードをおそらく自分で買っただけで何一つ罪はない。普通なら百歩譲って奪い取るという選択肢まではあれど、持ち主を殺そうなんてアイデアはギャグでしかない。しかし……ここまでの成り行きがあまりにも過剰に長く、ゴールは遠のきつづけ、冒険者ことプレイヤーは結構神経がキていた。

 

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筆者は初めて自分の足であの選択肢に辿り着いたとき、「そうか、ここまでの道のりトータルであの選択肢は完成していたんだ」と気づかされました。

長い長いお使いイベントの山場、これいつまでやるんだよ、もう終わってくれ、という感情がピークを向かえたところで「アイツを殺せば簡単に手に入るよね」という悪魔の囁きが訪れる(一応ですが四天王にもとっとと倒す選択肢はあります。強ボスバトルに勝たなきゃいけないけど)。人が人を殺してもいいと思ってしまうシチュエーションが考えぬかれゲーム内に仕込まれている。筆者がサガシリーズという作品に対して早くに「これを考えついた人は(邪悪な)天才だな」と実感したイベントの一つでした。

そういえば最近、その張本人こと河津神がインタビュー記事で「『殺してでも奪い取る』を選べないようにあえてショッキングな表現にしている」と話していましたが、筆者からは「そうでもないでしょ」とも返したい。間違いなく、あの選択肢は人が「コイツ殺してもいいかな」と思ってしまう絶好の条件を用意しぬいて差し込まれたはずだ。

かくして、ロマサガ冒険者たちはガラハドを殺して冥府に送られるか、否、それでも真摯な行動を積み重ねて太陽神の導きを受けるのであった……

 

 

 

もう一つの忘れられない構成というのが、ミンサガのアルドラ関連のイベントを初めて見た時。おそらくサガフロ2の物語と並んで筆者にとってRPGで最大の衝撃だったと言えるイベント。

(若干ネタバレのような話に入ります)

 

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条件を揃えると街中で出会えるようになる記憶を失った謎の男・ダーク。パーティメンバーに加えることで彼は次第に記憶を取り戻し数度の「思い出したぞ。自分は……」といった細かい会話イベントを重ねていくのだが……。

結論から言うと、この時この男の体には2人分の魂が入っている状態になっていた。1つは地下活動を行うアサシンギルドの首領・ダークの魂。もう1つが、遥か昔に戦い命を落とした女戦士・アルドラの魂。この2つの魂がおよそ交互に記憶を語ってゆき、最終的にどちらかの人格に定まるのだ。

 

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しかしいきなり始まった謎の男のイベントを初見のプレイヤーがそこまで理解するのは難しく、噛み合わない記憶話がどんどんと語られていってまず意味不明なのである。片や暗く苦しい半生を凌いだ男の過去が語られ、かと思えば話の繋がらない淡い恋心をとうとうと語りだす。筆者は初見の時もうなんの話をしているのかさっぱり分からなかったと思う。

 

《ちなみにこの「どちらかの記憶が蘇る条件」というのが、『武器攻撃を続けて「器用さ」が一定数に達するとダークに、術を使って「知力」が一定数に達するとアルドラへとキャラシナリオが分岐する』という仕様。この時点でまず「シナリオ進行の仕様とは何ぞや」みたいな話だ。》

 

そうしてそのフラグ分岐を経てアルドラルートへと突入すれば、その女戦士の正体がようやく明かされる。

彼女は1000年前にラスボス・邪神サルーインと戦い封印させた英雄ミルザの仲間の一人──いやミルザへの恋心こそあれど仲間たちとの信頼関係を築けず孤立し、後世にも英雄と語られることなく一人戦い死んでいった女戦士の魂だったのだ。その後彼女の魂は1000年煉獄に囚われたまま成仏できず悔やみ続けていた。

そして、今またサルーインが復活するという事態に際してひょんなことから冥府の神・デスに利用され、仮死状態に陥っていたダークの体にその魂を送り込まれたのだった。

 

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──バックストーリーとして作中の節々に垣間見えていた歴史や神話と、目の前で進行していた物語が突然ガッチリと一つになった感覚。そしてアルドラという「伝説に含まれなかった一人の人間」の数奇な運命を見ていたのだという理解。それは粗末な表現ですが筆者にとってまさしく「世界がここにある。」という感銘を受けた一連のイベントでした。筆者のRPG観なり「世界観」というものへの向き合い方は、アルドラ以前・アルドラ以後で最大の変化があったと言ってもいいくらいに。

(前提として、ロマサガ1・ミンサガという作品総体が「世界観」づくりとして作中の神話、歴史から風土、情勢、各文化圏の在りようまで丁寧に表現された作品だったという面もあります。アルドラのイベントはその上にあったから説得力と存在感を持っていたのです。)

 

そして、やはりアルドラのイベントは一般的に用意され進行していくシナリオではなく「フリーシナリオ」の中になければ意味はなかったのだろうと思う。

放り出されるとも形容されるくらいに野放図な旅路から始まるマルディアス世界を自分の足で主体的に触れていたからこそ、筆者は『アルドラ』という女と『このゲームの舞台には歴史があり、人々がいる』という感覚が重なる瞬間を自分のプレイ体験から実感することができたのだろう。

もし用意されたシナリオを受動的に見ているだけだったら、アルドラも一つの「古い時系列のキャラクター」でしかなかったかもしれない。例に出して申し訳ないが、FF10がどれだけその世界のあらましや過去設定が丁寧に描かれようと基本軸は「ティーダとユウナとジェクト達のお話」としてばかり映らされるように(一応、FF10はそういった作品コントラストが仕上がっていたからこその名作なのだとも思います)。アルドラを取り巻く衝撃は、一つにはフリーシナリオが持つ力だったのだと筆者は受け取っています。

 

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話が横にそれましたが、「ミンサガのアルドラはイベントの開始・分岐の仕様からその内容まですべてが衝撃でした」というお話でした。

 

 

 

 

 

 

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サガシリーズの現最新作・『サガエメラルドビヨンド』から、カマラの世界。

 

神から選ばれた少女がその土地を守るために「エプイケ」と呼ばれる花になり、そして枯れていく、そんな儀式を繰り返している世界。

サガエメは周回ごとにシナリオに変化が発生していく作品なので、プレイヤーはそのエプイケの姿を一輪ずつ、全く別々の旅路から垣間見ていくことになる(まずこの周回プレイで物語が変化しまくる構成自体が フリーシナリオと複数主人公をとってきたサガシリーズならではだし、またこれほどまでの仕様は新たな試みでもある)。

 

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1周目ではレラという少女がエプイケの花になった親友・アペの歩みを追いながら、自身も巫女になりエプイケとなっていくエピソードに触れ、

 

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2周目では一緒に生きてきた妹のことで精一杯なチュプが巫女になる様子を通して、この世界のしきたりや因果の残酷さをより克明に映し、

 

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そして3周目。かつてこの世界に引きずりこまれたある人間の娘・ナナが新たな巫女に選ばれた物語を共に進むことになる。

 

 

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……先の2作とは違って、発売したてで筆者も遊んでいる真っ最中の作品なので、まだまだまとまったことは言えないかと思います。筆者自身も先日この3周目のシナリオに立ちあったばかりだし、いやまだいくつかのパターンのシナリオや分岐もあるのだという情報もある。

ただ、このカマラの世界の物語にもまた、河津神や制作チームによる世界観表現、ファンタジーの創造、そして周回プレイを基礎とさせるゲームデザインの妙が一つに詰まっている。

 

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目を見張るのが、サガエメでは選択肢こそ並びつつも次に向かう世界がランダム?かつ明確には表示されないので(ある程度遊んでいれば大体どこの世界なのかは分かってくるけど)、それ故にカマラの世界に訪れた際なんかはまさしく「連れ込まれた」ような夢幻性を強く覚えるものになっている。プレイヤーは旅を続けていればきっとまたあの世界の物語に立ち会うし、そしてきっと立ち会っていない時にもあの世界の時間は流れているのだろう。そういう感覚が芽ばえるのです。

 

何より、このカマラの世界を巡ることを通して、筆者は「また新しいシナリオの魅せ方が出てきたぞ」というようなときめきを覚えていたのです。いくつかのゲームを遊んでいると、シナリオにしろ冒険の文脈なりにしろ「あのパターンだろうな」という傾向なり既視感がちらついてしまうこともある。それを逸脱した作品に出会っていきたい。きっと筆者は、アルドラの時に感じた「こんな魅せ方、触れさせ方がありうるのか!」という衝撃をずっとどこかで探しているのだと思います。

まあ、サガエメのことはここで私なんかが分かりきったようなことを述べるよりも、ユーザーが自分で触れてみればいいのでしょう。ただきっと、他所のゲームでは触れられない体験をするのではないのかな、と。筆者がサガシリーズ(とFF)に望んでいることはまさにそれなのです。

 

 

 

 

しかしこう言っていいのか分からないけど、最高に攻略サイト見ながらプレイや「さっさと畳んで話のタネにでもする」時代性に逆行しきっているような作風だよね (笑)。

あと、ディーヴァ編初周までプレイしていた頃なんかは「いや、サガなんだからきっとシナリオも良いはずなんだ」と期待を抱えたまま進んでいたのだけど、その期待はマジで間違っていなかったな〜と。まあ「あの河津の力作なんだからシナリオを疎かにする訳ないじゃん」って話でもあったし、一方でそれをどういう魅せ方でプレイヤーに提示してくるかは上述の作品群のようにまさに神のみぞ知るものでもあったのだが。

 

 

 

他のサガエメプレイ記録。

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最終皇帝でおなじみグレロンの世界はようやく攻略本情報を解禁したのですが、「超細かい○○制でルートが分岐する」うえに「とんでもないルート数が用意されている」と分かって真顔極めてました。こっちの世界も大概だな。それはそうと最終皇帝と化したレイアさん、麗しいですね。

 

 

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アメイヤ編での人斬のイベントにも到着。

アメイヤ編2周目では攻略本を見ながら進めたのに最初と同じエンディングに入っちゃったという輝かしいゲームセンスを発揮していました。今はアメイヤ、綱紀の2周目を経てアメイヤ編3周目をやっています。